むしむし特別企画! 車谷長吉さんインタビュー 第2回
特別企画! 車谷長吉さんインタビュー
反時代的毒虫、虫を語る
●第2回 人間がいちばんの害虫
―― どうしてカブトムシを飼おうとしたのでしょうか。
車谷 とにかく大人になってはじめて出会ったんだな。舎人公園で見つけて、ズボンのポケットに入れて帰ってきた。世話してたらかわいくなっちゃってね。まあ、私よりは嫁さんが珍しがったんだよね。それで金属のザルをかぶせて飼ってたんだよ。スイカが大好きでね。ところが、スイカもある時期を過ぎると八百屋に並ばないわけ。こんどはメロンだよ。高いやつ買うと1万円近い。で、またよく知ってるんだな。夕張メロンなんかよりさ、もっと高いやつのほうへ行っちゃう。安いほうは見向きもしないよ。
で、すごい力だよ、カブトムシって。ツノで電気冷蔵庫を持ち上げようとするんだから。持ち上げることは不可能だけど、毎日同じことを繰り返している。金属のザルなんかひっくり返しちゃう。雌はツノがないからどれくらい力があるかわからないけど。
―― 「武蔵丸」を読んでびっくりしたのが、雌がいないのに交尾しようとする。ああいうことってあるんですね。
車谷 まあねえ、生物学者じゃないから、私わかんないわ。昆虫学の先生に聞いてください(笑)。
―― それ以来、なにかを飼っていますか?
車谷 水槽のなかでフナを飼ってる。
―― そのフナはどこで……。
車谷 西武百貨店で。
―― 買ったんですか!?
車谷 あ、西武百貨店じゃないや。東武百貨店の屋上に淡水魚売り場があって、そこで買った。西武は熱帯魚とかそういうのしか売ってないんだよな。東武はナマズとか日本の魚を売っている。
―― 国産の魚がお好きなんですね。
車谷 ……それで、名前付けちゃってね。「レイナちゃん」て。レイは「お礼を言う」の「礼」。ナは奈良県の「奈」。
―― メスなんですか?
車谷 ……ちょっとわかんない。生物学の先生に聞かないと。
まあさっきの話でいえば、1年365日、発情しているのは人間だけだからね。生き物というのは、蛇とか牛でもそうだけど、年間のほんの一時期だけですよ。2、3日でしょう、交尾期というのは。田舎の家では牛を飼っていたんだけど、雄、雌ともにだいたい4日で収まっちゃう。
―― 人間は不思議ですね。
車谷 人間はタチが悪いよなあ。1年365日……。だから産婦人科なんていっぱいあるわけだ。
――はぁ……たしかに。
車谷 で、小学生くらいになるとさ、学校で「害虫」とかなんとかイヤなことを教えるんだよな。「害虫」だって。人間がいちばんの害虫なんだけどな。
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車谷長吉 くるまたに・ちょうきつ
昭和20年、兵庫県飾磨(現姫路市)生まれ。
慶応大学卒業後、広告代理店などに勤務しながら、小説を書き始めるが挫折。
郷里に帰り、旅館の下足番や料理屋の下働きとして関西を転々、「無一物」の生活を送る。
38歳で再上京。47歳のとき、書き継いできた私小説をまとめた作品集『鹽壺の匙』を上梓、
芸術選奨文部大臣賞、三島由紀夫賞を受賞する。
平成10年の『赤目四十八瀧心中未遂』(直木賞受賞)ほか著書多数。
妻は詩人の高橋順子さん(小社から詩集『あさって歯医者さんに行こう』を刊行)。
つづきはやく読みたいです!!!!!